稀勢の里の横綱昇進におけるスペシャル感。

 今年の初場所、おれも十五日間かかさず見てたけど、優勝は白鵬だろうな、と思ってました。


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 個人的に笑ったのが、白鵬が貴の岩に負けて、稀勢の里の優勝が決まった後、なんか空白があった気がする。それも一日くらいの長いやつ。「あれ、稀勢の里、優勝したの?」という、まだ心の反応がついていけてないような空白。
 NHK は優勝とともに速報出したし、その後のニュースでもバンバンやってたんだけどね。
 でもこの空白は、全国の相撲ファンを覆っていた気がする。「優勝したんだよね?」っていう。
 翌日の千秋楽。
 おれに関しては、稀勢の里が土俵際で白鵬をぶん投げても、「で? 稀勢の里、優勝したんだよね?」という精神状態だった。
 信じられない感じだったんである。
 
 で、優勝インタビューがはじまった時、意外なくらい滑らかにしゃべる稀勢の里。それがきゅうに、うっと言葉につまった。
「おお」と思ったね。見てて、さすがに泣いた。
 
 その翌日、NHK のシブ5時っていうニュース番組で、能町みね子さんが「まだ信じられない」っていってたのを聞いて同感だった。
 もうこの時点で、ほとんど横綱昇進は確定していた。
 こういっちゃなんだけど、ほぼ 100 パーセント、間違いない。直感的な根拠にすぎないけど、横綱になる。なるのは確実。
 しかし、そのことを極力考えないようにしていた自分がいる。
 なる。っていっちゃったら、ならないかもしれない。
 なる。っていっちゃったら、稀勢の里が緊張しちゃうかもしれない。
 そう思って考えないようにしていたわけ。
 
 したら、なったね。さすがに。おれの思惑とか関係なく。
 おれは半端な相撲ファンだけど、それでも萩原のころから知ってる力士だし、やっぱり感激はある。このひと、印象だけど最初から強かった。負けるけど強い相撲を取る、という感じだった。
 稀勢の里は肝心なところでコロッコロ負けはじめるんだけど、でも弱いから負ける、という印象じゃなかった。メンタルなもんだろ、と思ってたし、解説のひとも似たようなことをいっていた。
 
 それが 5 年くらい前からかな。
 どっしりしだしたんである。
 押しこまれても平然としている。体勢を立て直す。落ち着いている。
 負ける時の相撲は、あっさり土俵を割るので、普段の強さとのギャップが大きく、「モロい」という印象を強く与えた。
 格下の相手に、ころっと負けるのである。あてにならない強さだった。
 NHK の解説委員、北の富士さんも、舞の海さんも、稀勢の里が優勝を逃がすたびに残念がる。残念なあまり、けっこうなこといってた。聞いてたおれもその解説にうなずいていた。
『また駄目か、村上春樹と稀勢の里』みたいな川柳を読んだ記憶がある。
 緊張してアガって負けるんだろうな。とおれなどは思っていた。
 
 稀勢の里は、なぜ30歳で19年ぶりの日本人横綱になれたのか? | THE PAGE(ザ・ページ)
 
 上記、THE PAGE の記事など読むと、いろいろと納得する。メンタル・コントロールも大事だろうけど、稀勢の里が稀勢の里なのは、そういうことでもない感じがしてきた。
 

 今場所、稀勢の里のどこがどう成長したのか? という質問に相撲関係者の多くは「何も変わっていない」と答える。

 ようするに、なにかを気軽に試したりせず、ずっと同じやり方で、ジワジワと強くなっていったのだ。カタツムリみたいな速度で。
 稀勢の里自身、自分のことを「大器晩成」と評している。
 稀勢の里は負けもするけど、思わぬところで勝ちもした。代表的なのは白鵬の 63 連勝を止めた相撲だ。手のつけられないイケイケ状態の横綱に強い相撲で勝ったのである。
 とほうもない大手柄だったかと思うのだが、本人はいつものふてくされたような顔をしていた。変わらないのだ、いつもこのひとは。

 もうひとつ、いい記事がある。
 相撲レポーターの横野レイコさんという方の記事だ。
 
 「稀」な「勢」いではなかった大器晩成力士の快挙 : 深読みチャンネル : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 1/6

 不器用ゆえに、実直なまでに日々の鍛錬を重要視する。彼がよく口にする「一日一番」こそが、彼の最大の強みである。もちろん一日も早く昇進したい気持ちもあっただろうが、とにかく地道に地力をつける。そうすると昇進もおのずと付いてくると思っていた節がみてとれる。

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Copyright © The Yomiuri Shimbun

 日本人横綱、19 年ぶりってことで、メディアの取り上げられかたも大きい。
 しかもただの日本人横綱じゃない。日本人が愛する日本人像が稀勢の里にはある。寡黙で努力家で、一念をもってことに取り組む姿が、われわれは好きなんである。
 実際、こんなに注目されてたのか、と驚くほどたくさんの報道がなされた。
 読売の朝刊で読んだけど、中学の作文で「努力で天才に勝つ」って書いたらしい。
 もううっとりしちゃいそうではないか。
 口上は「横綱の名に恥じぬよう精進いたします」と、ちょっと噛みながら述べた。
 土俵入りは雲龍型とのこと。
 このへんもいい。気取ったこといわないし、雲龍型かっけー、と思う感性もすごくよくわかる。
 
 稀勢の里がどんな横綱になるかは比較的容易に予測できる。
 コロコロ負けて金星配給マシンとなり、横綱らしからぬボロボロの成績で北の富士さんにクソミソにいわれるであろう。
 また一方で、「強いっ」と膝を打つような相撲を連日続け、ふたたび賜杯を抱き、日本人力士ここにあり、と思わせてもくれるだろう。
 その両方が見られる。
 横綱なんだから強くなきゃいけないのだが、正直、負けたって別にいい。
 稀勢の里はその弱さも含めて、日本人の日本人たる原型みたいなことになってる。非論理的だけど、今年は日本にとっていいことあるかもしらんね。

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