ハゲてみてわかったこと

 二十代後半くらいからハゲはじめていて、四十になる手前ですでに、額から頭頂部へかけて毛がほとんどなくなっていた。
 それでも、側頭部の髪を伸ばして頭頂へかぶせ、反対側の髪も折りたたむようにハゲ部分に乗せて、ハゲを隠しつづけていた。もともと癖毛である。そんなやり方でも意外にふんわりと、ハゲ部分を覆い、毛の量が多いように見せられていたんである。
 もっとも、じっくり観察されると余裕でバレる隠し方ではあった。回りのひとがみんな優しかったので、軽くつっこまれるくらいですんでいたのだ。


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 それが、四十代になってきゅうに面倒臭くなったわけ。
 風に吹かれると頭頂にのせてた髪がぺろーんと剥がれちゃったする。
 漫才師の海原はるか・かなたの、はるかさん、いるじゃないですか。相方にふーって息を吹きかけられると、髪の毛がぺろーんってなっちゃうネタ。
 リアルであれ。
 実際にその状態になると、相手どん引きだよ。
 いっしょに遊んでた姪っこがショックで黙りこんだことあるからね。
 もともと、髪の毛ってチクチクするし長く伸ばすの好きじゃない。
 もういいだろってことで、切ったのよ、自分で、ハサミで。
 ハゲ丸出しにしてみたわけ。

 まず、家族はつっこむわな。よぉハゲってなもんで、それはいいよ。
 会社な。
 誰もこないのな。こいよ、ってこっちは思ってる。このハゲいじってくれ。
「あれ、どうしたんですか、なんかやらかしました?」
「なにかを反省してハゲてるわけじゃねーから」
 とかさ。
 わくわくして待ってるのに、こないのよ。
 けっこう仲良くしゃべるひとがいたんだけど、なんかちょっと距離ができたからね。
 いや、わかる。
 相手もさ、このハゲどう扱っていいかわからない、というのがあるんだろう。ハゲのことに下手に触れて、怒られるならまだしも、相手を傷つけたりしたら最悪だ。自分に置き換えてみれば、おれだってめったなことはしない。
 ようするに、おれの不徳の致すところ、人徳のいたらなさ、それがもろに出た。信頼感があれば、
「髪切った?」
 みたいなさ、タモリ風の会話の糸口くらいにはなるはずなんだよ。
 逆に、前触れもなく、突然ハゲたおれが悪い。前もってどんな準備をするべきだったのかはわからないが。

 家と会社でのハゲはまぁそんな感じ。
 意外に気後れするのが、いつもいくコンビニとか、よく会う業者のひととか、淡い関係のひとたちなんだよね。
「今朝おきたらハゲてまして」
 みたいな、自分から踏みこんでいくスタイルが使えない。
 純粋にただ恥ずかしいだけっていう。
 むこうは、こっちのことなんか気にもとめてない、って考えればいいんだけど、みょうに気になっちゃうんだよな。

 それと残酷な事実として、ハゲると、扱いがそれまでより軽くなる。髪が薄くなると周囲の反応も薄くなる。冷くなる、ってほどじゃないのよ。ほんのかすかな違和感なんだけどさ。
 とくに女子。
 それと、うちは甥っこと姪っこがいるんだけど、子供は顕著だね。おばさんとかも反応変わるな。出先で珈琲に呼ばれなくなったし。
 妙齢の美女がきゅうに化粧っけなく現れたら、男も態度変わるだろうしね。
 まぁいいんだよ。この扱いの軽さ、そんなに居心地悪くない。変なプレッシャー感じないですむから。おれは泣いてないですよ、べつに。

 以上が、ハゲてみて一週間ほどで気づいたことだ。
 なによりも自分で自分の髪型に、いまだ慣れない。今さら女にモテたいわけじゃないし、どうでもいいんだけどさ。いや本当、泣いてないっすよ。

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