H.P.ラブクラフトが残した小説の創作法

 クトゥルフ神話の創始者、H.P.ラブクラフトが怪奇小説の執筆について文章を残していた、ということを知って、這いのぼる戦慄に震えがとまらない。しかも、あんまり観念的じゃなく、実用的。そのうえ、インターネットで読めるときた。


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 怪奇小説の執筆についての覚書 H.P.ラブクラフト 青空文庫

 というズバリの表題。
 前段の部分で、自分がどういう目的を持っているのか、それを達するべく怪奇小説という表現を選んだのはなぜか、を語っている。ファンにとって興味深い話だ。
 着想はさまざまあるものの、とラブクラフトは続けて語る。執筆はだいたい、次のような五つの段階で進められる——。
 くわしくは上のリンクを読んでいただくとして、次のような感じではないかと思う。

  1. 第一のプロット。事件について時系列順にまとめる。厳密に起こる順を記述する。因果関係をきっちりして、要点と詳細をカバーする。
  2. 第二のプロット。語る順をまとめる。主人公・読者のストレス、クライマックスを考えて構成する。第一のプロットの内容を変えてしまってもかまわない。
  3. 第二のプロットにしたがって、実際に書く。手早く、さらさらと、あまり細かいことはいわずに小説を書いてしまう。ここでも、プロットにこだわってはならない。必要なら前の段階に戻って調整する。
  4. 文章を書き直す。小説らしい文章にする。
  5. 清書する。最後の見直し。

 このうち、5 番目は、コンピュータで書いてるひとには必要ないかもしれない。
 1 番目については、すぐに形にせず、頭のなかでモヤモヤさせておき、2 番目ができそうな段階で書き出すのがよい、とラブクラフトはアドバイスしている。
 さらにラブクラフトは後段で、怪奇小説はアクションというより、雰囲気を書くのだという主張をつづけている。

 正々堂々たるアプローチだと思い、ちょっと感動した。
 魔法的なテクニックみたいなものがない、当たり前っちゃ当たり前なやり方。こういうのが一番の近道なんだろう。事件の推移をまずまとめて、それにもとづいて、もっとも効果的な構成をつくる、というのが、当たり前のようでありながらちょっと新鮮だった。

 でも、おれがこのリストで最高だと思ったのは、3 番目。
「第二の『語る順』梗概に従って——手早く、さらさらと、あまり細かいことを言わずに——小説を書いてしまう」
 という部分。
 下手でもいいから、とっとと書いちゃえ、といっている。こまけぇ話はいいんだよ、書いちまえ、と。後で直すんだから。ただ、暴走したら話の整合性はつけとけよ、それを怠るとけっきょく、書き上げられねーから。
 みたいな話だろう。
 これはつまり、うまい、面白い小説の書き方、というものを語ってないんだな。
 これはつまり、小説を書き上げるためのリストなんだと思う。
 小説を書きあげるってのが、初心者にとっては本当に難しかったりするんですよ。おれのことなんだけど。

 1920 年代にあんな、アウトサイダー・アートかよ、というような世界観をひとりで勇敢に作り上げたラブクラフト。しかしコリン・ウィルソンとかの批評を読むと、必ずしも文学的才能に恵まれていた、とはいいがたいようだ。
(作品を読んでいれば、そうだろうな、とは思うが)
 それでもたくさんの作品を雑誌に掲載させて、クトゥルフ神話なるものを作り上げてしまった。とにかく無数の小説を完成させたからこそ、できた偉業だろう。小説を完成させる能力がなければ、スタートラインにすら立てないのだから。
 おれだって文学的才能なんかないわけで、そういう者とって、とにかく小説を完成させる、というのは大事なことだ。
 才能にあふれてても、小説を書きあげられない奴っているからね。
 書き上げさえすれば、そいつらにはまず勝てる。面白いかどうかはともかく。

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