小説はけっきょく、謎だよ【意識低い系・ストーリー作り 1】

 たんなる素人でしかないおれが、小説を書いたことがある、という程度の根拠で、小説作法を語るっ!
 前回、プロットがちゃんと出来てれば、その小説は九割完成している、というようなことを、えらそうに書いた。
 そのプロットとやらはどうすればいいのか。
 という話を、誰かの参考になればいいな、と思い、記事にします。


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 忍法帖シリーズで知られる作家・山田風太郎が、夏目漱石の「こころ」を評した、短い文章を読んだことがある。
 そのなかで、娯楽小説の大家ともいうべき作家はいうのである。
「小説というのは、せんじつめれば『謎』である」
 こころ、という小説は、先生というキャラクターの謎の周囲を、主人公がぐるぐる巡る、漱石の低徊趣味がよくあらわれた作品である、と。
(なお、むかし図書館で読んだ本にあった文章なので、出典は忘れた)

 これをおれは、以下のように解釈した。
 ストーリーとは設問と回答である。
 良いストーリーとは、良い設問か、良い回答——あるいはその両方がしめされたものである、そういう意味に違いない、と。
 魅力的な謎がある。思わず回答を読みたくなる。回答を読んで満足する。しかしその回答のなかに次の謎がふくまれている。その謎の答えを知りたくて、次を読みたくなる。
 それが実現できれば、それは良いストーリーになるのではないか。
「謎っていわれてもなぁ。ミステリを書きたいわけじゃねぇんだよ。寝言いってねぇで、ズボンおろしてケツをこっち向けろや」
 などと激昂するあわてん坊さんもいることだろう。まずは聞いてほしい。
 たとえば、以下は良くない設問だ。

問題 A
 ヒロシくんは友達とキャッチボールをしています。友達が投げたボールを、ヒロシくんは捕れるでしょうか?

 激しくどうでもいい。失敗しようが成功しようが、たいした違いはないし、そもそも興味ない。
 しかし、ストーリーの始まりというのは、始まりゆえにまだ情報をたくさん提示できず、この程度の設問しかできなかったりするのだ。
 そういう場合は回答を工夫する。

回答 a-1
 捕れません。ヒロシくんは突如、苦しそうに顔をゆがめ、胸をおさえて地面に膝をついてしまいました。

 おい、ヒロシ。どうした。と読者は思ってくれるかもしれない。
 あるいは次のようでもいけるか。

回答 a-2
 捕れません。ヒロシくんの友達というのは、子ども相手でも手加減しないことでおなじみのプロ野球選手、身長 190 センチ、体重 100 キロ、大リーグ時代につけられた「野球傷」が頬に白くうかぶ岩田鉄山だからです。小学六年生のヒロシ風情が捕球できるはずもないのです。

 野球傷、なんてものはないと思うがともかく。
「もうっ、てっちん。頭蓋骨骨折するところだったよ! 少しは手加減してよっ」
「ぶっはっは。ヒロシ殿はいま少し修行が必要でござるな」
 などと続けていけば、読者は、
 ——この岩田ってやつ、糞だな。
 と興味を引かれ、ページをめくってくれるかもしれない。

 次なる謎は、前者の回答ならヒロシくんはどうなっちゃったか、であり、後者の回答なら岩田ってのは何者なのか、である。あと後者の場合は、ヒロシくんが怪我しないか、も少し心配だ。
 そうやって謎は、その回答のなかに次の謎を内包する。
 そして次の謎は、宿命的に賭け金がつりあがるのだ。
 前者の場合は、ヒロシくんの安否が賭けられている。
 後者の場合は、岩田の正体が賭けられている。
 話が壮大なら、最後のほうの設問で賭けられるのは、全世界の運命とか、全宇宙の明暗とか、とほうもないことになるであろう。
 ヒロシくんの話をすすめる。

問題 B
 ヒロシくんは野球に夢中です。中学でも勉強なんか一度もしません。周囲は心配しますが、本人は余裕です。「友達の岩田選手に推薦状を書いてもらって、岩田選手の母校、名門高校に推薦入学するよ」
 ヒロシくんは大丈夫でしょうか?

回答 b
 駄目です。

 岩田鉄山の返事は冷淡だった。
「拙者、今のヒロシ殿をわが母校にすすめることなどできもうさん。っていうか、推薦入学ってそういうことじゃないような気がするでござる」
 ということで、ヒロシは仕方なく、地元のバカ高校の弱小野球部に入る。
 ヒロシは、「勉強しなくても大丈夫」という一点に賭けていた。勉強しない日々がかさなるにつれて、その賭け金は大きくなってゆき、失敗すれば取り返しのつかないところまでゆく。賭け金がつりあがっていくと、設問は魅力をましてゆく。こうなると、答えはわかっていても、回答を見てみたくなるものだ。
 われわれは誰かの破滅が好きなのだ。

 ヒロシは高校野球で優勝するという、子どものころからの夢を砕かれ、岩田との友情も失う。すべてを失う。
 小説における設問とは、つまり、主人公や登場人物の、企画であり、選択であり、行動のことである。回答とは、その結果どうなったか、である。企画は成功したか。選択はなにをもたらしたか。行動は事態を変えたか。
 設問に対する回答は、だいたい四つのパターンが考えられる。

  • キャラクターは成功し、貴重なものを得た。
  • キャラクターは成功し、貴重なものを失った。
  • キャラクターは失敗し、貴重なものを得た。
  • キャラクターは失敗し、貴重なものを失った。

 ヒロシの例では、四番目、「ヒロシは失敗し、貴重なもの(夢や友情)を失った」ということになる。
 成功か失敗かはともかく、貴重なものを失った、で終わるパターンはまだ話が終わってないことが多い。なにもかも失う、ホラー映画のバッドエンドみたいなのもあるにはあるが。
 ヒロシの話もまだ続く。高校立志編である。

問題 C
 ヒロシくんの入部した野球部は、馬鹿やドキュソや陰キャが巣喰う、世紀末ゴミ溜め状態でした。
 ヒロシくんは野球部を立て直し、試合に出ることはできるのでしょうか?

 賭け金をすべて失ったヒロシなので、次は大きく勝って負けをとり戻さなくてはならない。にもかかわらず、状況は厳しい、という設問である。
 このへんから、ヒロシの借金生活がはじまる。
 主人公は宿命的に、おおきな目標のために周囲を巻きこみはじめるのだ。
 自分の用意できる賭け金には限界がある。仲間たちの努力や決断、勇気などを賭け金として預り、運用していく存在に成長するのである。

・サードの白鳥優一は、きびしい両親に、勉強に集中するよう命じられて、野球をあきらめようとしていた。しかしヒロシの、涙の説得で、優一の両親がまさかの翻意。ヒロシは優一を野球部にとり戻す。

・ピッチャーの坂本郡司は不良仲間と喧嘩三昧のまい日。ある日、対立する不良グループとの決闘で、仲間に見捨てられてピンチに。そこへ駆けつけたのがヒロシだった。「だって、おれたちチームメイトだろ」とかいうヒロシに心を動かされる。

・真山慎吾、通称「マシン語」は、運動音痴でメガネのオタ。しかし野球を愛する気持ちは誰にも負けない。ヒロシにはげまされ、敵チームのデータを解析するシステムを完成させる。

・可憐な女子マネージャー、田所美冬。ヒロシは彼女に、「わたし、ヒロシくんのこと信じてる……」みたいなことをいわれる。これは、勝ったらパイズリしてあげちゃう、という意味に違いない。

 さまざまな思い、決断、努力が賭け金としてテーブルに並ぶ。
 賭け金はつりあがっていく。
 こうなってくると、ささいなことでも大きくバランスが崩れかねない。
 たとえば、チームメイトがくだらない喧嘩して、チームの雰囲気がおかしくなったとか。坂本郡司がむかしの仲間に誘われる、とか。ヒロシがハスッパ尻軽の女子高生、木下ミカに誘惑されて練習サボるとか。
 いろんなことが出来る。
 それらが解決するたびに、仲間たちとの絆は強まるだろう。いっぽうで、その強固さにささえられるように、賭け金はうず高くなっていくのだ。
 あとこのへんで、岩田鉄山とかいうのいらねーな、と気づき、削除する方向を考えはじめるのも悪くない。

 最終局面ではそれまでのすべてが賭けられるべきだろう。

問題 D
 舞台は甲子園。同点のまま九回裏、打席にはヒロシ。満塁フルカウント。
 チームは勝てるでしょうか?

 最後の問いがどういうものであれ、回答はふたつだ。

  • 成功してなにかを得る。
  • 失敗してなにかを得る。

 
 勝とうが負けようが、主人公の今までに意味があった、ということを告げて物語を終えるのが良いと思う。

 ということで、ストーリーは謎でもって読者を引っぱる、ってことを頭に入れておくと、作りやすい。
 行動と結果。
 企画と可否。
 設問と回答。
 そしてキャラクターはいつもそれに、なにか、のっぴきならないものを賭ける。
 以上がまとめである。

 あとそういえば。
 読者もまた、時間、という貴重なものを投資して、満足を回収しようとしている。キャラクターとおなじく、時間という賭け金を支払っているのだ。満足が回収できなかったら、投資は無駄になってしまう。作者も悲しいし、読者も悲しい。
 せめて「クソ小説になっちったけど、精一杯やった」と、あとで自分にいいわけできるくらいは、頑張っておくべきだろう。
「なろう」に未完の小説を放置している、という事態も避けたいものである。

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