小説は、三つの要素でできている、らしいぞ【意識低い系・小説の書き方 2】

 前の記事で、小説をたくさん読むとリズムがつかめて、はかどるぞ、というようなことを書いた。

「リズムってなんだよ。適当なこといってんなよ。こっちはいそがしいんだよ」
 という話になってくる。
 小説のリズムをつかむのに役立ちそうな、三つの要素のことを書きとめておきたい。「序破急」みたいな、ストーリーの話ではない。


スポンサード リンク

 要約、場面、描写である。
 おれはこの考え方を、レオン・サーメリアンというひとが書いた「小説の技法」という本で学んだ。しかし以下に書くことは、かなり独自解釈が入っていることを先にお伝えしておく。
 小説は、要約、場面、描写という三つの、違うリズムをもつ要素を組みあわせて作られる、という考え方である。

要約

 要約とは「これまでのお話」を短くまとめたものである。
 役割は、物語の前提の説明であることが多い。
 要約内での時間の経過は早い。
 以下のような部分のことだ。

 勘太郎は小学生のころまで、眼鏡をかけた平凡な子供だった。中学に入るやにわかに学力を伸ばし、高校は進学校へすすみ、東京の有名私大に合格した。一生のつきあいができそうな友人と、のちに伴侶となる恋人にはこのころ出会っている。専攻は経済学だった。
 元財閥のメーカーに就職し、四十をすぎるころ、ひとつの転機をむかえた。

 小学生から中年に至るまでを手短かに語っている。
 キャラクターの背景のすべてを語るわけではない。ひとつの軸——上の例では、順調な人生を歩んできた男、ということをいいたい——にかかわることを、映画のカットバックみたいに示す。
 大胆に省略して、ここではもたもたと書かない。短く、大雑把に要点をならべる。長い期間を、短くまとめるため、小説内における時間の流れは高速となる。

場面

 場面とは、小説内で進行していること、小説のなかで、いま起きていることを描く部分である。小説の主要部分といっていいかと思う。要約や、次に書く描写は、省略されうるし、最初から書かれないことも多い。しかし場面はほとんどの小説に出てくる。
 役割は、物語を展開させること。
 時間の流れは、現実とほぼ等速になる。

 さえ子が帰ってきたのは、夜の十時すぎだった。
 あわてた様子で居間へやってきて、勘太郎に目をむける。愕然とした表情で立ちつくしている。
「どこいってたの」
「ぼくを探してたのか? 悪かったよ」勘太郎は、頭をかいた。「携帯をなくして、それで——」
「どこいってたの!」
「公園だよ。代々木公園」
「会社は? やめたの? 本当なの?」
 こきざみに震えるさえ子を見て、勘太郎はひるんだ。
「きょう、山口さんがうちにきて教えてくれたわよ。あなた、相談もなく、よくもそんなこと」
「なぁ、座ってくれよ」
「どうすんのよ! これから! あなた、本当、いつも……プライドばっかり高くて……」
「ちがう」勘太郎はいった。「プライドの問題じゃない。金だよ。かね。金の問題だ。ぜんぶ話すよ。さえ子、座ってくれ」

 こんな感じのやつが場面、である。
 舞台があって登場人物がいて、なんやかんやドラマチックなことを繰り広げる。現実らしさが適切に再現されている必要があり、行動、感情、匂いなどの五感が、文章によって伝えられる。
 脚本のセリフとト書きに似ているかもしれない。しかし小説における場面はもっと、人物に密着し、場合によっては心境にまで踏みこむ。
 場面における時間の流れは、読者が現実に文章を読む時間の長さと同じである、と考える。たとえば、短いセリフなら短い時間が小説内ですぎたのだし、長いセリフなら、それを読むのと同じだけ長い時間が小説内でも経過している。場面における時間の流れるスピードは、現実のそれと等速なのである。

描写

 描写は、ある対象を細かく説明する部分である。
 映像作品におけるズームアップやスローモーションに似て、ある物をゆっくりじっくりと見せる。
 役割は、ある対象に重みをつけること。
 時間の流れは遅い。

 腰まで届く雑草のむこうに、建物が見えてきた。
 モルタルの二階建だ。四角い煙突に雨垂れの跡がつき、スレート葺きの屋根は白いシミにふちどられている。外壁が大きくひび割れて、一部は剥げ落ちていた。窓にガラスはなく、カビで黒ずんだベニアが内側から打ちつけられている。目をふさがれた顔のようだった。
 ベランダはツタの這ったあとが黒く残り、腐ったのか、柱の根本が細くなっている。玄関の入口も、窓と同じでベニア板でふさがれていた。扉はない。入口のそばに、黒いスプレーで落書きされていた。じ獄、と書いてある。
「これのために……」
 夫は会社をやめたのか。さえ子は言葉を失った。

 なにか重要なものを細かく文章にして伝えると、描写になる。現実には、こんなふうに対象を見ることはなかなかない。だいたい一瞬見て、「廃屋だな」と思うだけである。
 小説でも、重要でなければ「廃屋があった」ですませるところだ。
 しかし物語にとって重要なら、描写が必要になる。人物や場所、ものごと、空気感や舞台設定は、丁寧に描写しておくと、書くほうも読むほうもあとあと楽になる。
 ひと目見ればわかることを、長々と言葉で描くので、描写においては、物語の展開は停滞する。小説内の時間の流れは鈍重になる。
 読者はその時間だけ、ひとつのものを見つづけるハメになり、「はいはい、これ重要なのね」というメッセージを受けとってくれる。その特徴ゆえに、小説内の重しやポイントになりやすい気がする。

 以上が小説の三要素である。
 ここまで説明しておいてなんだけど、だいたいの小説は、こんな風に截然と要素の見分けがつくものではない。だいたいの小説は、要約と場面がまじりあってたり、場面に描写がまざりこんでいたり、渾然としている。要素の区別など出来ない状態なんである。
 特にラノベとかは、もっとキレッキレで、冴えた展開のしかたをしている気がする。

 にもかかわらず、この三要素は知っておいて悪いものでもない。
 ようするに、要約っぽい場面では、時間の進行が速く、描写っぽい場面では時間の進行が遅い。それを踏まえていると、小説のテンポ、リズムがつかみやすくなると思うのである。
 だいたいの小説は、時間の経過を描く。物語、というのは時間の進行によってつむがれる因果関係だ。時間が動けば、物語はすすむ。
 問題はどのように時間をすすませるのか、だ。
 速くするのか、遅くするのか。
 要約、場面、描写を知っていると、時間の進行速度を、ブロックでも組みあわせるみたいにあつかえる。
 ここまで要約と場面でテンポよくきたから、次に描写を配置して一度、物語を落ち着かせよう、とか。
 描写で読者をじらしておいて、次にスピードアップする「ため」にしよう、とか。
 自分のセンスで物語の速度を速めたり、ゆるめたり、コントロールできる。リズムがきざめるようになるわけ。

 三要素なんて知らなくても、書けちゃうひとは平然と書けちゃうらしいけどね。
 おれみたいに、執筆しようにもどっから手をつけていいのかわからない、という方には、この三要素は役立つと思う。使いやすいし、使えればサマになる。要約や描写がしっかりできてれば、ナリだけはなんか小説らしくなっちゃうのである。
 意識低いけど、かっこうがつく、という意味では上記の三要素、マジおすすめ。

スポンサードリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です